一ヶ月後。曽我たちは高校三年生になっていた。昼休みに、曽我を含め五人は、人気がない六階に集まっていた。「平和な高校生活が手に入ったのが、高校の終わりって残念だよな。」智は、笑いながら言っていた。「ここまで来るのに、結構、犠牲を払ったぞ。」

曽我は、うつ向いて言った。「曽我、やせ我慢せずに、俺たちに頼ったら、良かったのな。」山勝は壁にもたれかかって、ため息瑪姬美容をついて言った。「前に言ったろ？俺たちが撒いた種だ。俺たち三人で片付けないと意味がないんだよ。俺たちのせいで、死ぬのなんて嫌だろ？」

曽我の言葉に周りは沈黙していた。友人を助けたいが、自分の命が失われるリスクを考えると、助ける事を躊躇してしまう。沈黙の雰囲気の中、テッタが口を開けた。「それもそうだな。おい山勝、お前、助ける気なんかなかったろ？それに俺たちなんか言うんじゃねぇよ。」

山勝は、小さい声ですまないと言った。「でも、終わったんだし良かったんじゃね？さすがに俺は、死ぬのはゴメンだな。」陽は、周りの雰囲気など考えずに、ニヤニヤしながら言った。「今、思えば、あいつは馬鹿なのか、良い奴だったのか分からないな。」

智が何かを思い出しながら言った。智が指すあいつとは、一人しか該当しなかった。「両方だろ。馬鹿で良い奴。もしかしたら、負い目を感じてたんだろ。俺が同じ立場だったら、負い目を感じるな。」曽我は、顔を動かさずに言った。「馬鹿で良い奴か。」

曽我たちが敵対する連中はこの世には存在せず、中学時代から続いていた戦争は終結して、命を狙われる心配もなく、普通の高校生活を迎える事詩琳美容が出来るようになった。勝利を得たとは言えないが、事実上、勝利を収めた事になる。二人の犠牲の上で。

同時刻。刀夜は、教室の自分の机に座っていた。亡くした友人の事を思い出して、自分が友人の代わりに生きていたいいのか疑問に感じていた。友人は、自分を守るために、命を落とした。言ってみれば、友人を間接的に殺した事になる。足でまといだった自分が友人を殺した。

刀夜には友人の分まで生きるのが辛かった。友人の犠牲の上でのうのうと生きていく自分に嫌気が差していた。「俺は、生きてて良かったか。俺なんかで良かったのか。」兄弟は、独り言をつぶやいた。返ってくるはずのない独り言に返事が返ってきた。「誰だって、犠牲の上で生きているものだ。兄弟。」

刀夜は振り返ってみると、右顔面に一線の傷がある男がいた。「俺も犠牲の上で生きている。誰かが通報したおかげで、焼死体にならずに済んだ。お前は生きてていんだよ。」顔に一線の傷がある男の逃走人は言った。「兄弟ってまるで、裕二を呼んでいるみたいだね。」刀夜は苦笑した。

「この兄弟って呼び方、兄弟が最初に俺を呼んだ名前なんだけど、結構、気に入ってたんだよな。この前、逃走人は卒業とか言ったけど、逃走人という名前も気に入っているぞ。それは、置いておき、俺も兄弟って呼ぶから、お前さんも俺の事を兄弟って呼んでくれたら嬉しい。」

刀夜は、しばらく考えて答えを出した。「別にいいけど。早速、呼ぶけど兄弟、何で、服の袖に血が付いているの？」刀夜は、怪訝そうな顔で言った。「さ・さぁ。結核を患って、吐血した時に、袖で拭いたかもしれないし、鼻血を出した時に、拭いたかもしれない。」

逃走人が嘘をついている事は明確で、さらに疑問が深まったが逃走人なりに伏せたい事情があると考えて、追求詩琳黑店をやめる事にした。「どうせ後で分かるからいいけど。それで、俺たちの普通じゃない生き方は終わったって思っていい？」言った後に、少し不安になった。

「ああ、俺たちの手で、すべてを終わらせた。刀夜の命を狙われる事もない。間違いなく、俺たちは自由だ。死の運命から逃げてやった」逃走人の顔は先程のような嘘をついている顔ではなく、全てが終わった事が分かる自信に満ちた顔だった。